『LOST IN THE AIR』

(※これは(勝手に)ART-SCHOOLSPITZGRAPEVINEの楽曲を全曲解説していく途上で遺跡となってしまっていたBlog「Self Service」の移植記事です。移植日:18/6/22 オリジナルのポスト日は投稿日時参照)

 

自主レーベル、Very Ape Recordsからリリースの2nd mini album。

【特徴】
・こちらも第二期に移行すると同時にレコード会社との契約が終了したので、自主生産限定盤。現在入手困難。
・こちらも後に『Missing』というコンピレーション・アルバムに全曲収録されています。
・基本的にモノクロのアートワークを含め前作『スカーレット』と世界観を共有しています。
・内ジャケのイラストは戸高氏によるもの。

2005年2月リリース。

Lost In the Air

Lost In the Air

 

 

1.LOST IN THE AIR
恐らく後にも先にもないだろう、ART唯一キーボードでリフを奏でている珍しい曲。
「スカーレット」とは違ってやや凝っているとも言える曲構成で、ARTの中でもかなりの異色曲。
本人達も扱いきれていない部分があるのか、ライブでも演奏されることは少ない…と思っていたら第二期の解散ライブとも言えるワンマン「ART-SCHOOL」でかなり久し振りに演奏された。
歌詞を見ると、相変わらず第一期の厭世感をエロティックな感性を動員して描かれている。
PVは正月の翌日に撮られたものらしい。木下氏が初詣している光景を楽しめる。


2.FLOWERS
サイケデリックな揺れたギターとともに、力強いベースが貫かれている。「レモン」同様、久し振りにかなりのパワーポップな曲だ。ドラムもリズミカルでハンドクラップできそうなくらいである。
歌詞の<<空っぽの君でいいさ~>>のくだりはSyrup「Inside Out」を思わせる(当時Syrupは「Inside Out」を音源化してはいなかったがライブでは度々演奏していた)。
サビもSyrupのように、韻を踏んでリズミカルに進んでいくスタイルになっている。


3.羽根
イントロはSHERBETS「Black Jenny」と同じミュート奏法から。
この曲もどちらかと言えばリフ一本で攻める曲だが、戸高氏のギターによって単調に聞こえることはない。
歌詞を見ると、<<小3で終わった>><<パラシュートは開かない>>などストレートに絶望を歌っている。後に木下氏はインタビューでその二つの歌詞を見て「それくらい精神がすごいマズい状態だったんでしょうねえ…」と苦笑した。


4.刺青
後に『PARADISE LOST』にも収録される単調ながら叙情的な曲。
タイトルは邦画『刺青』と、木下氏の昔付き合っていたガールフレンドが(タランチュラの)刺青を実際にしていたことから。
機械的でタイトなドラミングと落ち着きながらも、ディレイなどを使って80'sポストパンク的なテイストを出したギターが光る曲。
木下氏や戸高氏自身もこの曲は特に気に入ってるらしく、なるべくライブで演りたい、と語っていた。


5.I CAN'T TOUCH YOU
Radiohead「Black Star」を思わせる、フェードインで始まる曲。
ギターの音数が少なく、ドラムも単調だがベースの音が太くグルーヴ感があるので、サウンドだけを聴けば第一期のようなサウンドになっている。
この曲もそうだが、第二期の木下氏が描く喪失感は第一期のような抽象的、幽玄的なものより具体的で肉感のあるものになっている。"猿"という言葉を多用しているのも第一期からのファンが距離を置かざるをえなかった要因の一つと言えるかも知れないが、個人的にはスピッツの手法を露骨に表現しているようで良い。


6.PERFECT
タイトルは、Smashing Pumpkins「Perfect」から。
第一期からARTはシングルやミニアルバムの最後の曲は淡々とした素朴な曲をもってくるのが定説だった。この曲も、それらと同じ方向ではあるが、二番からは戸高氏のギターが入るのでどちらかと言うとSlowdiveのような、サッドコアとシューゲイザーを混ぜ合わせたような質感になっている。
歌詞を見ると、第一期のラスト曲に常々持ってきていた疎外感を全開に押し出したものになっており、「ステートオブグレース」や「天使が見た夢」などを思わせる。