『あと10秒で』

(※これは(勝手に)ART-SCHOOLSPITZGRAPEVINEの楽曲を全曲解説していく途上で遺跡となってしまっていたBlog「Self Service」の移植記事です。移植日:18/6/22 オリジナルのポスト日は投稿日時参照)

 

第二期ARTのメジャーレーベルとなったPONY CANYON(ROCKER ROOM)に移籍して初のmini album。

【特徴】
・メジャー再デビューを果たした、第二期ARTの三部作で最後のアルバム。
・今までの第二期のミニアルバムはモノクロームだったが、今作のジャケは朱色を押し出している。なお、縦に見るジャケットは初。
・タイトルトラックの別ミックスの隠しトラックあり。ここには記載していません。

あと10秒で

あと10秒で

 

 

1.あと10秒で
揺れるサンプリング音から始まって、単調なままサビで爆発という彼らのお得意の曲構成であり、今でもARTの代表曲と言えばこの曲を挙げる人も多い。
歌詞も最小限に言葉数を抑えて(デジタル処理されたドラムの抑制されたビートも光る)、サビで躍動感を出している。
今でもライブで必ず最後に演る曲で、ファンからの人気も高い。
が、正直に言うと個人的にはこの曲、前作「LOST IN THE AIR」くらい異色な曲に聴こえ、歌詞がシンプルな分、木下氏の書くそれの魅力の一つである叙情的なスタイルもそぎ落とされてしまっているようで、これを代表曲とするのは何だか腑に落ちなかったり…。


2.汚されたい
タイトルはSyrup16g「汚れたいだけ」を思わせる。「汚されたい」と受動的な願望系であることがミソである。
これも機械的なドラムに、落ち着きながらも存在感のあるギターを乗せておりどこか80'sポストパンクの香りもする曲。
ポップで甘い曲調ながら、歌詞は相変わらずふしだらで、第二期らしい曲でもある。


3.イディオット
タイトルはラース・フォン・トリアー監督のデンマーク映画『イディオッツ』からか。
第一期の「foolish」の延長線上にあるような、フランジャー全開かつエッジのたった攻撃的な曲。タイトルも「foolish」を違う単語で表したものである。
ここではドラムが機械的に叩いている部分と肉迫した迫力で力強く叩いている部分とがあり、それが不自然でなく曲に合っていて良い味を出している。
「口でしたいの」という言葉は、後に「Forget The Swan」で同じように使いまわされている。<<たった一度寝ただけ>>と繰り返す様が露悪的である。


4.LITTLE HELL IN BOY
サンプリングした洋画のフレーズが終始バックで流れている、ミドルテンポながら美しい曲。
この曲の歌詞は、後に木下の小説『皆殺しのキキ』の世界観として使われており、それは「ボリス・ヴィアンを意識した作風」とのこと。
スケートリンク」という言葉が出てくるのは、「ロリータキルズミー」以来だが、情景的にはかなり近いものがあるかとも思える。
また「ユカ」と初めて日本人の女性名が使われている。


5.カノン
タイトルはギャスパー・ノエ監督のフランス映画『カノン』から。
イントロのギターのアルペジオやドラミングはThe Cure「High」のそれと同じもの。
サウンドも歌詞も後に「LOVERS LOVER」に使いまわされている。
この曲はバンドアレンジよりも、アコギスタイルでライブでプレイされることが多かったように思う。
歌詞を見ると初期の村上春樹氏のような切なくも残酷なものになっている。


6.僕のビビの為に
タイトルはボリス・ヴィアン『日々の泡』のエピグラフ(「僕のビビのために」)から。
現時点でART史上、唯一のインスト曲。
と言っても、演奏は非常にシンプルで、ドラムもリズムマシン(Roland CR-78か)のサンプリング音を無骨に使ったような質感で、リリース当時は「手抜きでは?」と揶揄されたりもしていたが、むしろミニマルな感性がファニーだ。