『PARADISE LOST』
(※これは(勝手に)ART-SCHOOLやSPITZやGRAPEVINEの楽曲を全曲解説していく途上で遺跡となってしまっていたBlog「Self Service」の移植記事です。移植日:18/6/22 オリジナルのポスト日は投稿日時参照)
ART初の海外レコーディングにして第二期初の3rd full album。
【特徴】
・UKインディギターポップの聖地、グラスゴーで録音されたもの。
・プロデュースにTony Doogan(Belle And SebastianやSuper Furry Animalsなどを手がけた)を、一部の曲のキーボードにMogwaiのBarry Burnsを、コーラスにはex.The DelgadosのEmma Pollockや後にKARENやRopesの一員となったex.on botton downのアチコ氏などを迎えて制作された。
・全編にわたって、グラスゴーの空気がパッケージングされており神秘的で幽玄なアルバムに仕上がっている(ライブDVD『Sleep Flowers』ではそのレコーディング模様を収録している)。
・アー写で戸高氏が着ているTシャツはThe Flaming Lipsのもの(個人的には当時店頭で予約して買ったらこのポスターをいただき、今でも自室に張っている)。またジャケットも同氏が現地で撮った写真を加工したものである。
2005年10月リリース。
- アーティスト: ART-SCHOOL,ACO
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2005/10/19
- メディア: CD
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1.Waltz
のっけから戸高氏のリバースギターが幽玄なメロディーを奏でる、Sigur Rosを彷彿させる曲。
このアルバムのカラーを象徴するような、典型的な北欧サウンドで、シンプルながら幻想的で綺麗なアルバムの幕開けを飾っている。
<<今からあの海を観に行こう>>と相変わらずアルバムの幕開けにふさわしい、"君"を誘う一節から始まるが、前作の「水の中のナイフ」や前々作の「BOY MEETS GIRL」とは全く違う穏やかな質感だ。
ちなみに、キーボードはMogwaiのBarry Burnsによるもので、<<For You>>のコーラスは元DelgadosのEmmaによるもの。
2.BLACK SUNSHINE
前曲の穏やかな雰囲気を受け継いだまま、シンプルに爆発していく典型的なARTらしい曲調のリードトラック。
全体的なコード進行は第一期の「サッドマシーン」のそれと近いが、戸高氏のシングルコイル一直線ながら美麗なフレーズにより、単調にならない。
この曲に限らずアルバム全体に言えることだが、このアルバムの中のアップテンポな曲でも、第一期のような切迫感に満ちたものはなく、ゆるやかに美メロのまま盛り上がっていくものがほとんどだ。グラスゴーマジックによるものだろうか。
ライブでは木下氏と戸高氏が間奏で向かい合ってお互いにリフを弾く様がクールである。
3.ダニー・ボーイ
タイトルは映画『ダニー・ザ・ドッグ』からか。
穏やかなアルペジオが終始鳴り続けており、全体的にメロウな曲調もBelle And Sebastianのよう。サビでも爆発せずに透き通っていくように澄んだサウンド。キーボードもゆるやかに切ない。の割に、歌詞を見ると相変わらず"猿"全開の歌詞でふしだら。
そのためか個人的にこの曲が一番胸に沁みたのは、あろうことか公衆便所で聴いていた時だった。苦笑
4.Forget The Swan
タイトルはまんまDinosaur Jr.「Forget The Swan」から。
このアルバムの中で唯一、スコットランド的なまろやかさを保ちつつ大爆発するような疾走感のある曲調。戸高氏のギターも、今までに無くストレートでシンプルな役割で北欧パワーポップ的な爽快感がある。
歌詞の<<口でされるのが好き?>>は前作収録の「イディオッツ」から使いまわしのもの。木下氏はオーラルセックスの仕草がお好みなのだろうか(すぐに<<そんな恥ずかしいことを何故今も覚えてる>>と続くが苦笑)。
5.クロエ
ミニアルバム『スカーレット』のページをご参照下さい。
とは言え、この曲は前にリリースされた時のそれをリミックスしたもので全くサウンドの質感が違っており、今作ではグラスゴーテイストにまとまっていて、かなりソフトに聴きやすくなっている。だからこそ歌詞の救いの無さが余計に際立つのもあるという訳だ。
6.あと10秒で
ミニアルバム『あと10秒で』のページをご参照下さい。
7.欲望
タイトルはイギリス映画『欲望』から。
サウンド面はサビでは木下のソロ時代の「RIVERS EDGE」のそれを使いまわしている。
リフがたった2コードで進んでいくARTの中でもシンプルな曲ではあるが、戸高氏の甘美的なアルペジオが曲に広がりを持たせている。
また、歌い出しの<<Touch Me>>は、ノルウェーのニューウェーブバンド、A-ha「The Sun Always Shines On TV」のそれに似ている。
8.刺青
ミニアルバム『LOST IN THE AIR』のページをご参照下さい。
9.LOVE LETTER BOX
タイトルはまんまThe Posies「Love Letter Boxes」から。
サウンドは戸高氏の鋭いアルペジオとパワーコードとが交互に続く印象的なイントロで始まってサビは控えめ。
英文法がおかしい(<<She Don't Know>>は通常"don't"でなく、"doesn't"を使う。しかし、The Flaming Lips「She Don't Use Jelly」のオマージュかも?)木下氏の歌詞は、どこか第二期のそれと言うより木下ソロ時代や第一期を思わせるどこか可愛らしいつくりになっている。
ちなみにライブDVD『SLEEP FLOWERS』ではこの曲のイントロを木下氏が明らかにミスしていて何だか微笑ましい。笑
10.PERFECT KISS
タイトルはNew Order「Perfect Kiss」から。
サウンドも、ある意味ではNew Order的。と言うか、第二期以降のART特有のアシッド感のあるファンキー路線の「クロエ」を引き継いだような曲調。
相変わらず歌詞の<<口を使って>>のあたり木下氏のオーラル・セックスへの偏愛と言うか執着のようなものが見え隠れするようで良い。
最近ではあまり演らないが、当時はライブでもよく演っていた曲で、戸高氏のワウをゲイズするスタイルが特徴的だった。
11.PARADISE LOST
タイトルは旧約聖書を下敷きにして書かれた超大作『失楽園』から。
まるで辞世の句のような、ドライながら陰鬱なタイトルトラック。
このアルバムの中で、最も耽美的なバックのSEに切り裂くような戸高氏のギターがかぶさった曲で第二期の真髄とでも言うべきスタイルになっている。
歌詞は今までのARTの曲を引用したものをも切り取っており、主に「車輪の下」、「斜陽」、「水の中のナイフ」などが使われている。
<<ハート型の~>>はNIRVANA「Heart Shaped Box」からか。
ちなみに、この曲は今まで一度もライブでプレイしたことがない。
戸高氏は、このアルバムの中で最も好きな曲にこの曲を挙げている。
12.僕が君だったら
穏やかな賛美歌のようなキーボードをバックにアルペジオ主体で歌われる、素朴な曲。
歌詞もタイトルも「Perfect」などに通じる木下氏の疎外感と自己否定をテーマにしたもので痛々しい。
この曲はグラスゴー的と言うよりは北欧、特にデンマークのMewのようなサウンドになっている。
13.影
素朴な前曲と幽玄な次曲に挟まれながらも、力強いパワーポップスタイルの曲。
この曲も全体的な雰囲気はUSパワーポップのそれと言うより北欧ポップに近く、どこか儚い。
歌詞を見るとあまり第二期のような肉体的なものよりかは『LOVE/HATE』期のような喪失感に満ちたものになっている(とは言え、出だしから<<「身体だけだなんてよく言うね」>>だが)。
Barryが奏でるキーボードがところどころに流れており、ポップ感の隠し味になっている。
14.天使が見た夢
タイトルはフランス映画『天使が見た夢』から。
ARTのアルバムで最後の曲は素朴だとはもう既に何回も書いてきたが、この曲もそれは同じ。
少しリバーブのかかった木下のボーカルに、淡々としたキーボードと囁くようなコーラスが重なっていて救いのない世界観を優しく包み込むようなサウンドになっている。
歌詞は虐待をも思わせるような、捨てられた「君」への歌(=もしかして木下氏自身に歌った曲かも知れない)。
<<憎んだってそれで良いと初めて素直に思えたんだ>>という一節があまりに憂愁を掻き立てられる。