「フリージア」

(※これは(勝手に)ART-SCHOOLSPITZGRAPEVINEの楽曲を全曲解説していく途上で遺跡となってしまっていたBlog「Self Service」の移植記事です。移植日:18/6/22 オリジナルのポスト日は投稿日時参照)

 

第二期のARTが初めてリリースしたシングル。

【特徴】
・幽玄な前アルバム『PARADISE LOST』から一転して、『Flora』期を予感させるようなギターポップで穏やかな4曲シングル。
・今作では初めてART-SCHOOLとしては木下氏以外のメンバーが作詞・作曲、そしてVoまでもを手がけた曲が収録された。
・ジャケットはスピッツ名前をつけてやる』のオマージュ。一人一人のメンバーがぐにゃっと曲がった感触が似ている。

2006年4月発売。 

フリージア

フリージア

 

 

1.フリージア
シングル・トラックではあるものの、惜しくもオリジナル・アルバム収録の機会を失っており、ベスト盤に収録されるまで、他のシングルに比べるとあまり陽の目を見られなかった曲。
アンビエント風のSEと共に奏でられるギターのアルペジオが、『PARADISE LOST』期とは違い輪郭がハッキリしておりながら、優しい率直なギターロック感のある曲。サビなどで鳴らされるグロッケンの音色も、『PARADISE LOST』のそれよりも、賛美的に響いている。
<<裸のままの君の裸のままに触れていたい>>というサビの一節は、第二期当初で見られたエロティックで官能的な響きではなく、どちらかと言えば静謐な身体に触るかのような感覚を覚える。かと言って、手放しでポジティヴかと言うと、そこはもちろんART-SCHOOL、<<綺麗なままじゃきっと見えないものがあるのさ/この哀しみが/この憎しみが>>と歌い切る様が清冽だ。
PVはホームレスのような浮浪者に扮したメンバーが集まり、演奏するといったもの(最早、言うまでもないが、櫻井氏が良い味を出している)。


2.光と身体
「フリージア」ではなく、『Flora』に収録されたのは、こちらの曲だった。
タイトルはどことなく、GRAPEVINE涙と身体」を思わせるセクシャルなもの。
歌詞をみてみると、<<すれ違った優しげな天使は/いつも通り青い血に染まった>>は、スピッツ愛のことば」からの引用で、どちらもあまりに残虐かつ神聖で清冽な感覚を活かすことに成功している。
個人的に歌詞的な意味では、ART-SCHOOLの中でリアルタイムで聴いて最も驚いた曲だった。ここまで"君"に向けたメッセージが明確な曲もなかったように思えたからだ。
<<あの光は遠ざかっていく>>のに、今までのARTならば黙って涙をこらえながら震えながらそれを見つめ続けることしかできなかった。しかし、ここでは<<手を繋いでいよう>>と"君"へ明確に手を伸ばしている。この情景は、これ以降、第二期ARTの原風景とも言えるような地点になってくる。


3.キカ
ART-SCHOOLとして初めて戸高氏がヴォーカルを取った曲。
前曲の流れを引き継ぎつつも一転して、アンビエントな景色が広がるようなポストロックなメロディが麗しい。
歌詞は、第一期的のART的な異国情緒を第二期的な幻想的な景色に滲ませている。<<無垢な狂気/晴れた午後に>>や<<イノセントは黒く染まる>>など木下氏にも引けを取らないくらい、鬱屈した情景を歌った部分も多いが端麗なメロディと戸高氏のドリーミーなヴォーカルゆえに、思わず気付かずにいてしまいそうなくらいだ。
戸高氏の曲は、この後も現時点で数曲、収録されているが、その中でも最もドリーミーな曲だろう(オーストリアの画家、アルフォンス・ミュシャに影響を受けたと公言する同氏だが、そのような教会的な賛美歌の要素が垣間見えるかのようだ)。


4.LOVERS LOVER
「カノン」同様、The Cure「High」的なドラムが心地良いが、歌詞の方は一見、ポジティヴな言葉を使っているようで、どこまでも尽きることのない諦念を歌っているという面では、かなり歪つな曲。個人的にもARTの中で「LUCY」に続けてベスト3に入るほど好きな曲。
<<彼女の手は光の中に、彼の手は影の中にあったんだ>>は村上春樹1973年のピンボール』からの引用。
ART特有のファンタジックな風景が目に浮かぶ詞ではあるが、よく聴いてみると、生と性への諦めさえ感じさせるグロテスクな構成としてはスピッツに近いかも知れない。
サビの<<I wanna drown in you>>は、木下氏も気に入っていたのか、当時のツアーグッズにも、この言葉がプリントされていたと記憶している。