『MEAN STREET』

(※これは(勝手に)ART-SCHOOLSPITZGRAPEVINEの楽曲を全曲解説していく途上で遺跡となってしまっていたBlog「Self Service」の移植記事です。移植日:18/6/22 オリジナルのポスト日は投稿日時参照)

 

インディ時代の2nd mini album。

【特徴】
・前作の反省を活かして、少しハイファイ寄り(それでも、普通のアーティストに比べたらローファイだが)で録音した音質で幾分聴きやすくなっている。
・ジャケはWeezerを意識してるのか、メンバーが整列しているだけのシンプルな画(余談だが櫻井氏がメガネをかけている、しかもこの時代には珍しい? セルフレームのもので可愛らしい)。
・今作の内ジャケの絵は、大山氏が描く異国情緒溢れるもの。

2001年4月リリース。

MEAN STREET

MEAN STREET

 

 

 

1.ガラスの墓標
タイトルはフランスのニヒルなオヤジ、セルジュ・ゲンズブール主演のマフィア映画『ガラスの墓標』より。
リフはまんまFolk Implosion「(Blank Paper)」。
引用具合が他の曲よりも際立ってると思う。
歌詞も、のっけからNINE INCH NAILS「Hurt」の冒頭の引用。
他にも<<君の耳たぶ~>>のくだりは中原中也「羊の歌」からの引用で、
<<醜いやつらは~>>はヴァーノン・サリヴァン(ボリス・ヴィアンの変名)『醜いやつらは皆殺し』からの、
<<電気羊>>はSF界の鬼才、フィリップ・K・ディック『電気羊はアンドロイドの夢をみるか?』からの引用。
これほど歌詞もサウンドも元ネタがある曲はARTの中でも少ないんじゃないでしょうか。
昔はライブの定番曲でしたが、あまり演らなくなって寂しい曲の一つ。
ライブでは<<「発狂した」電気羊たち>>が<<「優しい目の」電気羊たち>>になりもする。


2.ロリータ・キルズ・ミー
タイトルは、アメリカ映画『ロンドン・キルズ・ミー』より。
そして歌詞の盲目の少女が手を振る光景は、その映画のワンシーンの情景。
曲調はというと、まんまWeezer「Surf Wax America」。
「ラララ~」のスキャットも同じくWeezer「You Gave Your Love To Me Softly」から。
<<夕陽、ポプラ、テニスコート>>は太宰治『HUMAN LOST』という短編小説の一節「テニスコート、ポプラ、夕陽!」を逆回転したもの。
これ自分は太宰を読破しようと意気込んでた高校生の頃に発見して、授業中にも関わらずかなりテンション上がったのを今でも覚えてます。
<<僕に砂をかませないで>>も太宰の『斜陽』から。
これはARTの代表曲の1つで、今でもライブの定番ですね。ライブではイントロが長くなったりと様々なアレンジがなされており、個人的にも好きな曲で、刹那的な情景とサウンドがよくマッチしていると思います。
タイトルは後に漫画家、犬上すくね氏が『ラバーズ7』にて引用。


3.ニーナの為に
ドラムがPavement「Summer Babe」と一緒のリズムパターン。
ディレイから始まる異色の曲で、これまた隠れた名曲だと思います。
リズミカルなフレーズに、淡々と歌い上げる木下氏のボーカリゼーションは少しラップ調。
MARQUEE誌によるとこの曲の歌詞は、全編カットアップ技法で書かれているらしい。
同誌で「ニーナ」と言う名が気に入っていた、と木下氏は述べている。
個人的に<<小指、性器、青いシュークリーム、注射、白夜、地下鉄の夢>>と言う一節が、海外のアンダーグラウンドな光景を切り取ったようで好きです。村上春樹っぽくもあるし。
自分が高校生だった頃(「フリージア」あたり)のライブでのラストの定番曲でした。


4.エイジ・オブ・イノセンス
タイトルはマーティン・スコセッシ監督のアメリカ映画『エイジ・オブ・イノセンス/汚れ無き情事』より。
歌詞を見ると、<<ボリス・ヴィアン>>は上述のフランス作家。
サビ前の<<First Picture of You>>、The Cure「Pictures of You」からか。
<<陰画のような~>>は、Flipper's Guitar「星の彼方へ」から。
ベースがグイグイ引っ張っていく疾走感満点の曲で、「リグレット」と歌っている割に前進してる感じがする。どちらかと言えば、刹那的ではあれど前向きな印象を受ける曲。


5.ミーンストリート
タイトルはこれまたマーティン・スコセッシ監督の『MEAN STREET』から。
歌詞は頭から、中原中也「秋の一日」を丸ごと引用。
罪と罰』は、ドストエフスキーの名著。
<<救いの雨を待つのが何故こんなにも虚しい>>は、GRAPEVINE手のひらの上」の<<恵みの雨を待つのが何故こんなにも疲れるのだろう>>からだろうか。
この曲はMARQUEE誌によると、ひなっちの「ヒップホップのテイストを入れたい」との主張からそのようなリズムを取り入れたらしい。
ベースソロが地味ながら、ファンクの色も見え隠れしていて、弾いてて楽しくもあるフレーズ。
ただライブで演ってあまりに不評すぎたらしく、以降封印したとのこと。


6.ダウナー
タイトルはNIRVANA「DOWNER」から。
リフはまんま、Pavement「Shady Lane」のリフを早めに歪ませて弾いたもの(と木下ソロ「NORTH MARINE DRIVE」の感覚が混在)。
詞、『アンダルシアの犬』は、シュルレアリスムの金字塔的映画。
<<千の天使~>>も中原中也からの引用で「宿酔」から。
<<She is a downer girl>>と言い切ってしまうのがARTらしいといえば、らしい。