『SONIC DEAD KIDS』

(※これは(勝手に)ART-SCHOOLSPITZGRAPEVINEの楽曲を全曲解説していく途上で遺跡となってしまっていたBlog「Self Service」の移植記事です。移植日:18/6/22 オリジナルのポスト日は投稿日時参照)

 

ART-SCHOOL名義での初の音源、1st mini album。

【特徴】
・木下氏自身「Pavementの1stを意識した」と公言している通りモコモコなローファイサウンドで、正直、聴き辛い側面は否めない。
・ジャケのイラストは同氏によるもの。特に盤面は少しエロティック。
・Special Theaks欄にそうそうたるメンツを記載するあたり木下氏らしい。

2000年9月リリース。

SONIC DEAD KIDS

SONIC DEAD KIDS

  

 

1.FIONA APPLE GIRL
タイトルはアメリカのシンガーソングライター、Fiona Appleより。
サビはまんまThe Posies「Golden Blunders」のそれを借用。
他には<<君のその二本の~>>のくだりは中原中也「わが喫煙」からの引用。
<<ライ麦畑~>>のくだりは言わずもがな、サリンジャーライ麦畑でつかまえて』から。
意識していか無意識下か、曲自体のメロディーは、後に「それは愛じゃない」で露骨に使いまわされている。


2.NEGATIVE
ARTらしい単純なコードの繰り返しと、鋭いリードギターのアンサンブルが楽しめる曲。
Pixiesのような乱暴さのある曲調で、歌詞は「Negative」と「願って」という言葉をかけて少しSyrup的な言葉遊びを楽しんでる感じが。
<<街路樹の猿>><<下品な島で住んでいた>>は、村上春樹ねじまき鳥クロニクル』での主人公とワタヤノボルの会話を思わせる。


3.MARCHEN
タイトルは中原中也の代表的な詩「一つのメルヘン」からか。
歌詞中に出てくるアレン・ギンズバーグビートニク文学の巨匠の詩人で後の曲で何度か引用もする。
この曲はアルバムの中でも特に地味と言うか抑揚がなくて単調な方かと…
しかしローファイなミックスが1番効果的に生きている曲ともいえる。

<<Just like a piggy>>はJesus and Mary Chain「Just Like Honey」から(ボーカリゼーションも)。と言うよりタイトルはこのジザメリともかかっているのでは(曲調自体はそれほどジザメリっぽくはないけれど、単調という意味ではややかぶっているとは言えそうでもある)?
<<この世界で貴方が汚れた時は死ぬさ>>という一節がやけっぱちなビートニクの感性を感じることができる。


4.斜陽
タイトルは太宰治の名著『斜陽』から。
第一期解散ツアーに、木下が「(第一期の)ART-SCHOOLそのもの」と語った(『BOYS DON'T CRY』にその模様を収録)ほどの初期の名曲。
リズムやメロディーにしろ、歌詞にしろ、イノセントと狂気の交錯が激しい、まさにART-SCHOOLならでは、と言った曲。
<<パラソルを~>>のくだりは、中原中也「別離より」から。
もう一つ<<血に染まるラストシーン>>は、Flipper's Guitar「午前3時のオプ」の大サビから。
この曲のリフは木下氏が考えた中でもかなりシンプルながら説得力のある甘美なフレーズ。
西洋風の情景をイメージさせる曲が多い彼らの曲の中で、珍しい東洋的な「チャイナ・タウン」と言う言葉が使われているのも興味深い。
第一期が解散して以来、長らくライブでは意図的に封印されていたほどバンド側も思い入れのあるであろう曲。


5.汚れた血
タイトルはレオス・カラックス監督のフランス映画『汚れた血』より。
歌詞を見ると「ナツメグ」は、上述の『ねじまき鳥クロニクル』に出てくる赤坂ナツメグから。
<<地獄の季節>>は、アルチュール・ランボーの名編『地獄の季節』から。
<<バナナフィッシュ>>は、サリンジャー『バナナフィッシュにうってつけの日』から。
<<車輪の下へ>>は、後に曲タイトルにもしているヘッセ『車輪の下』から。
文学作品からの引用が著しい。
曲としては少し単調にすぎる前編から、中間を挟んでいきなりノイジーな展開に陥るシューゲイズ曲で、現時点でART史上最長の曲…だったが、『BABY ACID BABY』の「We're So Beautiful」が5秒だけ長くなり史上最長の座を明け渡した。
ラスト大山氏の鳴らすノイズがすごくドリームポップでCocteau Twinsのよう。


6.SANDY DRIVER
リフは、まんまNIRVANA「Drain You」。曲はどちらかと言えばパワーポップより。
<<水の中の~>>のくだりはフランソワーズ・サガンの中編小説『冷たい水の中の小さな太陽』からか。
意外なのは、やはりサビの<<Do You Marry Me?>>という言葉…以降ふしだらになっていく木下氏からは想像もできないプロポーズソング(MARQUEE誌では「普通に当時の彼女と結婚したかったって思いが出てるんじゃないかな」と意外な回想が載せられている)。笑
<<生足に堕落をした>>あたりは、第二期ARTの艶かしい感じに通ずるものがある…かも。
最後はWeezerBuddy Holly」からのフレーズを炸裂させてシメ。