『TEENAGE LAST』

(※これは(勝手に)ART-SCHOOLSPITZGRAPEVINEの楽曲を全曲解説していく途上で遺跡となってしまっていたBlog「Self Service」の移植記事です。移植日:18/6/22 オリジナルのポスト日は投稿日時参照)

 

ART-SCHOOL全曲解説と銘打っておきながら、ART-SCHOOL名義の作品でなく、木下理樹名義でリリースされたソロアルバム『TEENAGE LAST』からになります。

【特徴】
・木下氏のソロだけあって宅録っぽいサウンドがメインでART-SCHOOL時代よりも増してシンプルな楽曲が多い。
・特筆すべきはその歌声! ART時代より何倍もあどけない少年のようなボーカリゼーション。可愛いです。
・しかしそんなVoに反して音質はかなりジャンクな感じで洋楽のブートレグを意識した音作りになっている。

99年10月リリース。

ティーンネージ・ラスト

ティーンネージ・ラスト

  

 

1.GLORIA
タイトルはアメリカ映画『グロリア』より。
ベースから始まるノイジーにすぎるまでのデッドなギターが響く疾走感満点の曲。
この曲に限ったことではないですが、このアルバムの時点で氏はARTに通じる世界観や曲の作り方を構築できていると思う。すなわち、「不確かな未来なんかより、それが嘘であっても、ただ君のいる今を」と。
ギターはDinosaur Jr.とかジザメリみたいなジャンクなノイズ感が前に押し出されている。
サビのメロディは、後にART「ジェニファー'88」で使いまわされている。


2.RASPBERRY
Aメロの<<君が世界の~>>のくだりは、Spitz日なたの窓にあこがれて」の冒頭部分からの引用。タイトルもスピッツのフェッティッシュな変態ソング「ラズベリー」からか。
前曲とは打って変わって、とてもポップな1曲で恐らく、ARTの曲を合わせてもこんなにドリームポップな曲は少ないと思う。
実際には、ドラムも単調で元ネタのスピッツの曲のようにシンセが跳ね回ってるといえば跳ね回ってるけど、どちらかと言えば抑揚のない単調な曲調。なのに、飽きさせない不思議なサウンドになってる。
ちなみにBメロのメロディとボーカルは後にART「LOVERS」で使いまわされている。


3.RIVERS EDGE
タイトルはアメリカ映画『RIVERS EDGE』より。
1曲目に炸裂していたディストーション全開のノイズギターが戻ってきて1曲目同様、疾走感のあるサウンドに。これはもう、典型的なDinosaur Jr.だとかSebadohみたいなローファイの轟音系のサウンド。この曲も「GLORIA」同様、新人としてはあまりに個性的で世界観が確立されているように思う。<<もう何もほしくない/眩しいリバーズ・エッジへ>>という歌詞は逃避と言うよりも哀愁と情欲を掻き立てるようだ。
サビのボーカリゼーションやメロディラインは後にART「欲望」で使いまわされている。


4.SWAN DIVE
タイトルはアメリカのアンダーグラウンドのデュオ・SWAN DIVEより。
後に第二期ARTでリメイクされて『Flora』に収録されることになるこの曲、それとは違ってかなりシンプルな音作りになっている。
リメイク後の方は『Mellon Collie~』期のスマパンのような、柔らかく包み込むロマンチックなサウンドスケープなのと比べると、まだこちらはドラムも打ち込み臭くて無骨だが、完成度という基準でみると、やっぱりこのアルバムで最も聴き応えのある曲の1曲ではないでしょうか。


5.LIKE A DAYDREAM
頭から最後まで、どシューゲイズソング。
タイトルもシューゲイザーバンドの筆頭格、Rideの名曲「Like A Daydream」からまんま引用。
サンプリングにはDinosaur Jr.「Don't」が引用されていてノイジーになると木下氏のVoの後ろでJ Mascisがシャウトをしているという状態。
もうノイズの垂れ流しってこの曲のことを言うんですねってくらい陰鬱なノイズに終始包まれてて聴いてたら気分が滅入りそうになる(褒め言葉)。

 

6.NORTH MARINE DRIVE
タイトルはEverything But The Girlの片割れ、Ben Wattのソロ名義でのアルバム『North Marine Drive』より。
これ、自分は母親が、Everything But The Girlが好きだったので偶然、元ネタ分かりました。
曲のほうは、個人的にはどう考えてもこのアルバムの中で1番の名曲。
イントロのウィスパー気味のカウントがセクシー。リフは後にART「DOWNER」で使いまわされてますが、それを踏まえても素朴なリフから展開していく曲構成やシンプルなサウンドがドラマチック。
これ氏が宅録でしか出来ないことを演った、バンドとしてはシンプルすぎるけどそのシンプルさを逆手に取りまくった珠玉のミニマリズムという感じがします。

が、後に2人体制になったARTで『Hello darkness, my dear friend』でセルフカバーしている。そちらでは「SWAN DIVE」同様にかなり音の広がり、豊かさが増している(ソロではなく戸高氏含めた"バンドの”サウンドになっている)。全体的に温かさも感じられるアレンジで、冒頭のサンプリングされているフランス語のセリフ(何らかの映画からのネタ?)も違うものに変わっている。また、間奏もほぼ完全に新しく挿入されている。