『LOVE/HATE』

(※これは(勝手に)ART-SCHOOLSPITZGRAPEVINEの楽曲を全曲解説していく途上で遺跡となってしまっていたBlog「Self Service」の移植記事です。移植日:18/6/22 オリジナルのポスト日は投稿日時参照)

 

第一期のオリジナルでのラストアルバム。
『Requiem For Innocence』同様、こちらも邦楽オルタナの金字塔的側面があるのではないだろうか。


【特徴】
・制作当時、メンバー仲も木下氏の精神状態も最悪の状態だった(スタジオ内の会話は皆無で、木下氏も宿を失っており友人や女性の家を転々とする日々で、ひなっちと休憩時間にぽつりと話すくらいだったという)にも関わらず、最も幻想的で澄んだアルバム。
・未だにART-SCHOOL史上、最高傑作の呼び名も高いアルバムでもある。個人的にも『Requiem For Innocence』と合わせ最も好きです。
・『MIss World』同様、隠しトラック収録。

2003年11月リリース。

LOVE/HATE(初回)

LOVE/HATE(初回)

 

 

1.水の中のナイフ
タイトルはロマン・ポランスキー監督のポーランド映画『水の中のナイフ』から。
MARQUEE誌によると、木下曰く友達の結婚式から帰ってきてすぐに書いた曲とのこと。
前作の『BOY MEETS GIRL』とは違う、重苦しくも耳に残る印象的なリフで、アルバムの幕開けを飾る。次の曲「Evil」とも相まって、オルタナよりもグランジ色の強い作風になっている。
歌詞はイノセントを失わざるをえなかった苦悩と後悔の残る痛々しいもので(<<I wanna be twisted, Just wanna be twisted>>と屈折しきった思いをシャウトする様も素晴らしい)、ファンの中でも人気が非常に高い曲。個人的にもこの曲は、初めて聴いたARTの曲で、自分でも幾度となくコピーしたので、とてつもなく思い入れがあります。
ライブの幕開けも務めることが多いARTの名曲の中でも大名曲。
ライブではtoddyのサビでのメロウなギタープレイと木下氏の絶唱が素晴らしい。


2.Evil
シングル『Evil』のページをご参照下さい。


3.モザイク
同上。


4.BUTTERFLY KISS
『Melloncollie~』期のスマパンの世界観をまるごと持ってきたような、ロマンチックな曲。
ART史上、最もベースがハネるフレーズをしており、リズム隊の絡みが面白い。
幻想的な歌詞やそこはかとない虚無感は『シャーロット e.p.』期のインディ時代に回帰したかのよう。
サビの歌い出し部分は「LUCY」の2番のそれを使い回している。


5.イノセント
冒頭部分の歌詞は、まんまSmashing PumpkinsGeek U.S.A.」の同一部分から引用。
幻想的な雰囲気は前曲を引き継いだままバックで終始鳴り続けているシンセのフレーズが虚ろで儚い。
歌詞は、特にこの時期のARTが最も追求していた、(タイトル通りの)イノセントの喪失を前面に押し出したもので失われていく世界を如実に描いている。
アウトロのリードギターのフレーズはThe Cars「Just What I Needed」のシンセパートを借用したもの。


6.アパシーズラストナイト
タイトルは「JUNKEY'S LAST KISS」の使いまわし。
そしてリフ。これは完全にHouse Of Love「Shine On」。
ただ曲自体は、シューゲイザー感よりもポストパンクに近く耽美的な雰囲気が全体を支配している。
ART流の俯きがちで逃避的なクリスマスイヴソング(もしかしてスピッツがクリスマスに逃避するとこんな感じに近いかも知れない)。


7.LOVE/HATE
終始、木下氏の凄惨な精神状態を反映したような独白的な歌詞で綴られる(<<25歳で花が死んだ>>など)悲痛なタイトルトラック。
<<千の天使~>>のフレーズは、初期に多用していた中原中也「宿酔」から。
「自分以外の違う人間に生まれたのなら…」という想いが当てもなく彷徨う様は、「LUCY」や「Perfect」などに似た疎外感を表している。
この曲だけではあまりに苦しいからか、次のポップな「ジェニファー'88」と対になっているようで2曲連続で演ることが多かった。


8.ジェニファー'88
シングル「Evil」の項をご参照下さい。


9.Bells
Aメロのメロディラインは、「TEENAGE LAST」のものを使いまわしている。
前曲の流れをそのままに息苦しくかった雰囲気をポップに持っていくことに一躍かっている。
シンプルな曲ながら、キャッチーで、今までの空気を壊すことなく新しい風を流し込む曲で説得力のある曲。また、久しぶりに間奏部分でキーボードが使用されている。
また<<そばかす/レインコート/柔らかい耳の形>>と第二期的なセクシャルな要素も感じさせる。


10.SKIRT
シングル「SWAN SONG」の項をご参照下さい。


11.UNDER MY SKIN
シングル「UNDER MY SKIN」の項をご参照下さい。


12.プールサイド
タイトルはbloodthirsty butchers『プールサイド』からか(情報提供:dwさん)。村上春樹氏の短編にも同タイトルがある。
またイントロのギターフレーズは、The Cranberries「Dreams」のイントロからか。
この曲でも「JUNKY'S LAST KISS」同様、単語に規制がかかっていてモザイクに×××部分に入るのは「ヘロイン」(規制音は無し)。「JUNKEY'S LAST KISS」同様、誘っているっぽく聞こえるからレコード会社の"待った"がかかることに。
歌詞は、ART-SCHOOLの世界で描かれている、歪つな畸形の魚としての「君と僕」を歌っており、耽美的な前半の流れに近い雰囲気の曲。


13.しとやかな獣
タイトルは邦画『しとやかな獣』から。
前作のエンディングを飾る『乾いた花』に比べると、どちらかと言うとメロウでおとなしめではある。
しかし、歌詞は<<生まれたことに意味はないから明日も生きれるよ>>と最後に希望をもって締めくくられる。ただ、これも前作の<<繋がっていたい、生き残っていたい>>という宣言に比べると幾分、虚無的に聞こえる。
サウンドは、ギターが瑞々しい澄んだ質感になっている。


14.SONNET
タイトルは、中世ヨーロッパで流行った韻文スタイルのソネットから。
終始後ろで鳴っているのはEels「Estate Sale」をサンプリングして加工したものだろうか?
ただの弾き語りでなく、そのサンプリングされた外国の少女と母親の話し声が前曲の雰囲気を引き継いで諦念のように響かせている。Syrup「シーツ」のようなアルコール依存の感覚が歌われている。
ちなみにMARQUEE誌によると、このアコギは木下氏でも大山氏でもなく、ひなっちが弾いたものらしい。


15.(Seagull)
隠しトラック。
タイトルはRide「Seagull」を率直に引用したものだろうか。
セクシャルな歌詞を見ても、横ノリでファンクの要素を感じさせられるサウンドを見ても、第一期のものとは思えない、ほとんど第二期のような曲。しかしサビでは第一期特有の焦燥感のある大山のギターが鋭い。
この時点では、かなり実験的なことに挑戦しているはずで面白いのだが、隠し曲なので聴く機会があまり少ないのがもったいないのが、難点。