ジャケットイラストレーション、岩沢由子さんについて

(※これは廃墟となっていた過去のバンドBlog「Bathtub」からのサルベージ記事です。サルベージ日:18/6/22 オリジナルのポスト日は投稿日時参照)

 

こんばんは、青野です。

リリースして、1ヶ月が経った1stフルアルバム『(…Across the)Yellow Town, Pink St.』がAmazonで売り出され、着実に販売網を広めています。これから各種レコードショップでも取り扱われることになるかも知れません。

また、バンド側で募集している1stフルアルバムへの一言レコメンドページが、ミュージシャンや音楽ライターさんたちによってどんどん追加されています。現在は、日本において、特にニューウェーヴオルタナティヴシーンの中で人気のある雑誌の一つ(と僕個人は思っています)COOKIE SCENEのライターの藤田聡さんと東京のインディー・レーベル、Rejecreateのオーナー、半田雄翔さんからコメントをいただいており、掲載させていただいております。両名ともBathroomsの魅力を存分に伝えて下さるコメントで有り難い限りです。

また近々Bathroom Sketchesとしてライブの大きなアナウンスをさせていただく予定となっております。是非チェックしてみて下さいね。


それでは、今回の記事はBathroom Sketchesの1stフルアルバム『(…Across the)Yellow Town, Pink St.』のジャケットイラストレーションおよびデザインを施してくださった東京のイラストレーター、岩沢由子さんについて書きたい。

僕が岩沢さんの作品に出会ったのは今から約7年も前の2006年のこと。
まだ当時、高校生だった僕は、後に現在のBathroom Sketchesのメンバーと出会うことになる高校に通ってたけれど、プライベートで思わしくないことがあって、初めて高校をサボって、京都のTOWER RECORDSにギスギスした心を抱えて行った時だった。
特に目当ての盤もなくタワレコをさまよう平日真っ昼間。普段は、学校が終わってからとか休日に行くタワレコもそれほど人気がなく、僕は店内を物色していて、一枚のCDを見つけた。ドイツオレンジの『ネヴァーランドフリーザー』。

そのジャケットに釘付けになった。モノクロトーンで描かれる1人の少女、彼女は線の細い柔らかなタッチで描かれており、優しげでキュートであるとさえ思える顔立ちに目だけは虚空を見据え、希望とも諦観とも言えぬアンニュイな表情を浮かべていた。線細く描かれた彼女の、その目線の浮かぶ先に何があるのか。目はハッキリと「何か」を見ていることを明確に表すように、凛としていた。
モヤモヤは一気に氷解し、その一枚のイラストに魅了された。
そのアルバムをレジに持って行き、「試聴させてもらえますか?」と店員さんに聞いたのは当然のことだった。当時の下北系ムーブメントの灯火とも言える軽快ながらナイーヴなギターロックが奏でられていた。


そのドイツオレンジのフロントマンの篠塚さんは今では、それでも世界が続くなら、というバンドでメジャーデビューを飾られた。ただ個人的には、そのジャケットを手がけていた方が、こうして自分のバンドの1stフルアルバムのイラストレーションを手がけてくださったことは、感嘆と言うか、何とも言えない気持ちである。
そのドイツオレンジのジャケットを手がけられたイラストレーターこそが、今回のアルバムの岩沢由子さんだ。


高校生の僕はネットを通じて、ドイツオレンジのイラストを手がけた方の背景を知り、また彼女が京都のセレクトブックショップ、恵文社にて(後にご結婚なされる)VJの戸田広さんと共に展示会『Vola: Kuva』を開催されることも知った。
もちろん、これにも駆けつけた。残念ながら、その時は、岩沢さんも戸田さんもいらっしゃらず、1人で会場を回っていたのだが、岩沢さんの描かれる繊細で、しかし強かな画風や世界観に圧倒されると同時に戸田さんとの光や映像を用いたオブジェに感嘆していた。


気がつけば、僕の中で、岩沢由子さんというイラストレーターへの興味がどんどん増していた。
岩沢さんの描く絵はどれも瑞々しく清冽な光を放っている。そのイラストのどこかからは、「傷を抱えていること」「優しさの中に強固とさえ言える意志があること」「自省し、苦悩しながら、それでも芯をたしかに『見据える』こと」など、ともすればアンビバレントな感覚が浮かび上がる。それらこそが彼女のイラストが素敵なポップアートであると証明している。
彼女のイラストを見る時、絵の中で描かれる「彼女」たちと目を合わせ、時に目を逸らし、眼差しを向け返すと同時に自分自身を顧みる。線の細いイラストは、その淡さに反して、強固な意志と傷を抱えているからこそ描ける、そんな世界観に満ちている。


僕はあっという間に岩沢さんのファンとなって、高校の時から時折、彼女のブログを拝読していた。
そして、(故意に改変したりすることを除けば個人利用の範囲ではOKとされていたため)各種SNSに彼女のイラストのアイコンに使わせていただいていた。転機は岩沢さんがTwitterを始められた時。ずっと一ファンとして彼女のツイートを見ていたのだけれど、イラストにもブログにも表れている個人的な情感、様々な作品や出来事と触れた時の感覚などがツイートされるのを見ていて、思わず、リプライを送ったのを覚えている。
「すみません、実は高校時代からファンで、岩沢さんのイラストをSNSのアイコンに使わせていただいております。大丈夫でしたでしょうか?京都から応援しております」

それから僕は岩沢さんに、リプライをよく送るようになり、今でも不思議なのだけれど、一介のファンであった僕を岩沢さんからもフォローいただき、お互いにリプライを送り合う関係になっていた。


そして、もう一つの転機となったのは、2年前。放浪癖から東京に遊びに行って、泊まる宿なし、所持金少なし、東京の友人も少なしという状態で、お会いすることになった時だ。
杉並のある駅で、僕は岩沢さんと待ち合わせをしていた。当時の僕は金髪ロン毛眉毛なしで、お世辞にも品のあるとは言えない身なりではなかった。そんなチビ男が、右も左も分からぬ東京の夕空の下、憧れだったイラストレーターの方とお会いするからとブルブル震えていたのだから滑稽である。

今思えば、当時の僕は岩沢さんとお会いするということだけで事件であったので、特にお会いする理由もなかったのだが、カフェに行くことになった。その道中で、僕は思わず文房具屋を見つけ、そこで色紙を買った。
カフェに行くと僕は、その色紙を手渡し、「さ、サインいただけますか…」と震え声で伝えた。バカなファン丸出し。
岩沢さんは苦笑されて、「色紙にサインするなんて初めてだよ~」とおっしゃいながら、女の子と猫のイラストを描いてくださった。
このサイン色紙は今でも部屋に飾ってある。サインを見るに、11/2/25とのことだ。


それからバンド外の活動で、あるメディアの自画像アイコンを描いて下さったり、名刺を作って下さったり年賀状を下さったりしていて、遂に今回、バンド、Bathroom Sketchesのジャケットを描いて下さることになった。


『(…Across the)Yellow Town, Pink St.』の表ジャケットには、水中で佇む1人の女性が虚空(虚水)を見据えている。暗闇にも似た紺色の深海のような場所で、彼女は水の動きに合わせて明るく輝く髪を揺らし、泡を吐き出している。またバックインレイには同じく場所で、青い目を光らせてカラフルな泡を口から放出する女の子が、その泡を抑えようとしているのか口元を隠している。

実はこのジャケットとバックインレイ、アルバムのラフミックスができた当初にラフスケッチ一本目からいただいていたもの。
ハッキリ言って、他人様に聴かせられるレベルのではない荒いミックスの音源を聴いて下った時から既に、この構想は彼女の頭の中にあり、ラフスケッチを提案して下さっていた。僕は即決でどちらにもOKを出させていただいた。特に表ジャケットとなったスケッチは「これしかない」と言える、強い確信を得た。
メンバーの誰1人NGを出すことなく、そのままスケッチは採用となり、淡く、それでいて重厚なカラーリングとマスタリングが施され、こうして、商品としてリリースすることになった。


アルバムをリリースして、すぐに友人に聴かせると「青野にとっては(今までのキャリアでは)明るいアルバムのつもりだろうが、君が想定しているよりグロい」だとか「そこはかとなく暗い」だとか「ポップなのに憂鬱なのが出てる」だとかのコメントをいただいているが、僕個人としては、こもし暗さのようなものがあるならば、それは、このジャケットやバックインレイに表れているような紺色の感情だと思っている。黒ではなく、深い紺。そこにいるのは、「どこか」を見据えた1人の少女だ。カラフルな泡は、口を抑えても出てきてしまう、このアルバムに内包されたあらゆる淡い情感だと思う。
このジャケットは『(…Across the)Yellow Town, Pink St.』という作品を端的に表している。


また、歌詞カード面は岩沢さん直筆の歌詞が書かれている。
僕は普段、普通に字を書くと、あまりに角張っていて犯行声明文みたいだとか揶揄されるのだが、自分が書いた歌詞を改めて、他の方の手で書かれると、アルバムの中で描かれた8つの歌詞=ストーリーがより鮮明になっているように思う。
特に、僕個人としては「Whirlpool」や「Kinky Ape」などの詞は普段、岩沢さんがあまり使われない言葉を使っているので、その良い意味でのアンバランスさに、どうしてもニヤニヤしてしまう。
この「歌詞は岩沢さん直筆」というアイデアは、岩沢さんにイラストレーションをご依頼した時から、考えていたものであって、僕とは似ても似つかない丸くキュートな文字で書かれる歌詞は必見です。
リリックの合間には金魚が舞っている。アルバムを聴いて下されば分かるのだけど、今回の9曲の中で「金魚」というモチーフは全くなかった。金魚のモチーフは、イエロー・タウン・ピンク・ストリートという水中都市に紛れ込んだ"人"だと僕は思っている。あえて盤面には触れていないけれど、これも素敵。

制作中は、集中作業から何度も返信が遅れるなか、いつも迅速に御対応くださり、また素晴らしいジャケットを下さった岩沢由子さんには感謝してもしたりない。ありがとうございます。

また、インディー・レーベル、Evil Home Stereoのロゴも岩沢さんに依頼。
当初はJon Spencer Blues Explosion『Orange』のジャケットをさらにダーティーにしたようなアイコンに、とお願いしていたが、これまた、オーディオスピーカーからむっつりと不機嫌そうでキュートな曇が出てきているという岩沢さん流のポップセンスが見える素晴らしいロゴに仕上がった。

あるバンドのジャケットイラストレーションに惹かれたただの少年だった自分が、自分のバンドでそのイラストレーターさんに描いていただいているというのは自分でも信じ難いです。


一緒くたにするのは恐縮なのですが、今でもやはり、個人的には岩沢さんと自分は感性というかツボが似ている…そんな想いがあります。彼女の書くブログ記事やツイートに同意せずにはいられなかったことも何度もあるし、繊細さ、そしてそれを否定するのでなく、それを抱えてこそ、描き出すというスタンスにはいつも勇気づけられています。

個人的には岩沢さんと僕は邦楽アーティストでは、フェイバリットの一部が近いのもあるかと思います。
スーパーカーをはじめとして色々ありますが、特に僕と岩沢さんが互いに思い入れが深いアーティストは中村(一義)くんだと思います。
自分の音楽に中村くんからの影響が表れているかどうかは、はたして分かりませんが、中高時代から大きな影響を受けたアーティストの1人に中村くんはいて、それは岩沢さんにとっても同じだと思います。彼女のイラストに表れる素朴な、でも強かな意志をもつ説得力は、中村くんからの影響が多大であると思います。なお初めて岩沢さんとお会いした時に、お互い、ここの一節にこそ救われますよね、と話し合っていた曲は、「生きている」("完全な安定がないなら完全な不安定だってないな")です。


それでは、また。

PS:岩沢由子さんは現在、個展[koten2013]を開催しておられます。彼女の世界をより味わいたい方は是非、会場へ!